秘密の地図を描こう
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さすがに一月近くもベッドに押し込められているのは飽きる。それでなくても体力が落ちているような気がするのに、とキラはため息をつく。
「どうかしたのかね?」
もっとも、何か死よとしても彼の目を盗んでは難しいような気がする。今も、しっかりとため息を聞かれてしまった。
「少しぐらいは動いた方がいいような気がするんですけど」
体力を戻さないと体調も戻らないような気がする、と口にしてみた。
「確かに、そうかもしれないな」
珍しく彼が同意をしてくれる。
「とりあえずは、室内でできる運動でかまわないね?」
その程度であれば、自分がそばでキラの様子を確認できる。だから、ストップもかけやすい、と彼は続けた。
「十分です」
早々にストップをかけられるような気はするが、それでもベッドから抜け出せるだけマシだ、と思う。
「無理すると皆さんに迷惑をかけるとわかっていますから」
キラは何気なく付け加えた。しかし、何故かラウはため息をついてみせる。
「自覚はあっても無理はするのだね、君は」
そして、こう言う。
「……無理をしなければいけない時だけです」
あのときはそんな状態だった、とキラは言い返す。
「そういうことにしておいてあげよう」
とりあえずは、と彼は告げる。つまり、信用されていないと言うことだろうか。
「どのみち、あの男が事態を収拾できなければ、君が表に出る日が来るだろうしね」
そのときには、また、無理をしてもらわなければいけないかもしれない。
「そのときに君のフォローができるようにしておくべきだろうね、私も」
あと、一人か二人、自由に使える人材がいればいいのだが……と彼は呟く。
「あぁ、ニコルがいたな」
本国に、と言う。
「……ラウさん?」
ニコルには仕事があるのに、と思わずにいられない。
「何。彼の場合、君のそばにいられると言うだけですぐに食いついてくるよ」
ギルバートも協力してくれるだろうし、と彼は続ける。
「後は……歌姫あたりに連絡を取ってもらえば確実か」
彼女のことだ。何か対策をとっているに決まっている。ラウはそうも付け加えた。
「まさか……」
口ではそういうものの、ラクスならあり得ると思ってしまう。
それどころか、すでに準備が大和手いる可能性だってある。
「彼女は怖いよ」
ラウはそう言いきった。
「ザラ前国防委員長はそれに気づいていなかったがね」
自分が彼であったなら、真っ先に暗殺しただろう。ラウはそう言う。
「政治的センスもカリスマ性も、ギルバートよりも上だからね」
「……そうなのですか?」
ギルバートの方がすごいと思っていた、とキラは呟く。
「あの男がラクス嬢より勝っているのは経験だけだよ」
即座に彼はそう言い返してきた。
「カガリ・ユラも彼女の助言に耳を貸していれば、と思うが……本人が望まなかったのだろうね」
それはそれで正しい判断だろう。そうでなければ、オーブにいるブルーコスモスの標的になっていたのではないか。ラウはそうも言った。
「……セイラン、ですか?」
「そうだよ。セイランがどう動くか。それがオーブの未来を左右するかもしれないね」
そちらも監視しておくべきだろうか。しかし、とラウは考え込む。
「……ラクスには連絡とれますよ?」
彼女から情報を流してもらえばいいのではないか。言外にそう付け加える。
「そうだね。そうすれば、あの男にも恩を売ってやれそうだ」
いや、それは違うのではないか。キラはそう思うが、ラウは楽しそうだ。
「……プラントに戻ってから、メールを出してみます」
とりあえず、足を踏み出すことが必要なのではないか。そう思ってキラはそう言う。
「無理をしない程度にね」
即座に返された言葉に、思わず苦笑が浮かんでしまった。